フェルマーの最終定理

天才たちの祭典。本書は天才たちの数学以外の面も掘り下げることで人間としての深淵を露わにし、話の推進力を失うことなく描ききっている。それに加え、時間の前後と数学的な説明という難解になりがちなふたつの事柄に対して実にスマートに処理していて物語に没入できた。すぐれたドキュメンタリー番組を見ているかのような感覚はサイモン・シンがテレビの世界が出自であることと関係浅からぬことなのかと推察する。

他人が羨むほどの才能〜ここでは数学的な才能〜があれど、恋や思想に身をやつしあるいは得も言われぬ虚無により堕ちていくさまはむしろ愛すべきものだなぁと思った。彼らほどの才能があればその道に邁進すれば大成できるだろうにどうして横道にそれてしまうのかと思うのだが、彼らにはそれも大切な道なのだろうな。価値観は人それぞれだなぁと痛感した。

昨日まで、自殺しようという明確な意志があったわけではない。ただ、最近僕がかなり疲れて居、また神経もかなり参っていることに気づいていた人は少なくないと思う。自殺の原因について、明確なことは自分でも良くわからないが、何かある特定の事件乃至事柄の結果ではない。ただ気分的に云えることは、将来に対する自信を失ったということ。

フェルマーの最終定理(新潮文庫)P294

ガロアの政治的情熱が続くかぎり、運命の歯車がどこまでも狂ってゆくのを止めるすべはなかった。

フェルマーの最終定理(新潮文庫)P340

ひとつのテーマに対して時と空間を越えた挑戦があり、それが結実していくさまはとても高揚感のあるもので読み物としてとても面白かった。

蛇足だが「まぬがれない」という表記には違和感。「まぬかれない」か「免れない」と書いて欲しかったな。話し言葉では違和感がなくても書き言葉ではまだ違和感がある。

フェルマーの最終定理 (新潮文庫)
サイモン シン
新潮社
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