息もできない

1/10DVDで鑑賞。そして3/4にキノシタホールでも鑑賞。


この映画を知ったのはラジオから。「とにかくすっげぇから観てみて!」という感じのことをしゃがれ声の人が喋ってて、がクルマを降りても脳髄に沈殿したままだった。あとから調べてみたらダイノジの大谷の語りだったようだ。


『息もできない』


「面白そう」というよりは「観てみたい」という気になりツイートした2010/05/19だった。

岐阜での公開はそのツイートから約4ヵ月後。当然のごとく忘れていて劇場公開のタイミングで観に行けなかった。年が明けてようやくDVDで鑑賞。しかし、漏れ聞こえる絶賛の嵐で高くそびえ立ったハードルに加え前日にあまり寝られなかった自分には、この重く鈍色を放つ映画は荷が重かった。サンフン(ヤン・イクチュン)に亀田興毅がオーバーラップしちゃったりヨニ(キム・コッピ)とサンフンの出会いやヨニの弟がサンフンの部下になるなどあまりに奇跡的な偶然はちょっとご都合主義的に感じちゃったのもあって、絶賛の嵐の外でそよ風に吹かれてしまった自分を「まぁ、しょうがないよ、お前にとってはそういう映画だったのさ」と慰めていた。


時は経ってキネ旬で外国映画部門で1位になり、タマフルで聞くことになるヤン・イクチュン監督のインタビュー<前半><後半>。宇多丸も「シネフィル的な質問にシネフィル的な答えをするタイプではない」と述懐しているように、質問に対する答えが全然見当はずれ(笑)。カメラワークとか演出とかも論理的でなくてむしろフィーリングで感じ(もしかしたら手法をあえて言葉にしていないだけかもしれないが)。ケレン味の無いその脳天気にさえ聞こえる語り口に、むしろ好感と興味をいだき「こりゃアンコール上映観るしかない」


アンコール上映最終日、初めてのキノシタホール。きれいで小ぢんまりとしていていいね。後ろ2列と前8列くらい?に大きな通路があって迷った挙句に後ろから2列目に座ったのだけど直ぐ目の前に広がる空間のせいもあってかスクリーンが「向こう側にある」感がして「こりゃ失敗だったかなぁ」とか「席移動しようかな」とか考えたけど、もう始まっちゃったから他のお客さんに迷惑かな、と思ってやめました。今度からは前の島のいちばんうしろに座ってみよう。ちなみに映画始まってから入ってくる人も、あと10分くらいてところで出て行く人もいて(もしかしたら同一人物かも)理解できなかった。


DVDを観た際に鮮明に印象が残っていたのがサンフンが父親を最初に暴打するシーン。一服を終えて父の住む部屋のドアを開けるサンフン。一瞬垣間見える不安そうな父の顔を認めたその刹那、ドアは閉められ、ガラス越しにちらつく影、音、罵詈雑言。ここは鮮烈だった。劇場で再度観たら時間にしたら意外と短かった。「印象に残る」というのは意外とアテにならないものなんだな。相変わらず良かったけど。あとサンフンとヨニのデート、サンフンとヨニとサンフンの甥とのデートのシーンも好き。

どれほど憎んでも恨んでも血は、家族は、かくも人生に染みついているものなのだな、と。自殺を謀った父を背負いながら「死ぬな!死ぬな!シバラマ!」と繰り返すサンフンの悲痛な表情を観てそう思った。家族に問題を抱える寄る辺ない者どうしがサンフンを中心によっかかっていたら…その中心にいたサンフンがひょいと居なくなっちゃた。結果的にヨニ、マンシク、義姉、そして父はお互いに足りないピースを埋められたのだけど、物足りない。サンフンが居ないから。負の連鎖を勇気を持って断ち切ろうとしたサンフンは死に、そのサンフンを殺したヨニの弟がサンフンと同じ運命を辿ることを示唆させるラストシーン。やはり、泥沼につっこんだ脚は容易に引き抜けないんだな。

結果的にはサンフンを殺したのはこの父親だ。サンフンがたまたま獲得してしまったのは「シバラマ」と暴力だが、姿カタチを変えた「シバラマ」と暴力は息を潜め脈々とここあそこに受け継がれているのだろうと思うとゾッとする。

しかし、これほどに家族は明け透けにお互いを意識しあえるのだろうか?自分を顧みると不思議でならない。これほどの激しい愛情表現を必要とする状況が異状なのだろう。自分はずいぶん幸せなのだろう、きっと。




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